「今年こそは5キロ痩せる」「毎朝1時間は勉強する」
そんな高尚な目標を立ててから、今のあなたの生活はどれくらい変わったでしょうか。
もし何も変わっておらず、自己嫌悪を感じているとしても、どうか自分を責めないでください。あなたが行動を続けられないのは、性格や根性の問題ではありません。
これから紹介する行動科学は、精神論に頼り切らない学問です。気合でなんとかするのではなく、なぜ脳はサボりたがり、どうすれば自動的に体が動くのかを科学的に解き明かします。
このメカニズムを知れば、あなたは意志の力に頼ることなく、まるで歯磨きをするかのように、目標に向かって行動できるはずです。
行動科学とは?どういう学問なのか簡単に解説
行動科学とは、いわば人間の行動の取扱説明書のようなもの。
なぜ健康に悪いとわかっていても、深夜にラーメンを食べてしまうのか?
なぜ締め切りギリギリにならないと、やる気が出ないのか?
そういった”あるある”な行動の裏側にある法則を解き明かすのが、行動科学の役割です。
行動科学の定義
行動科学をわかりやすく定義するならば、「いつ、どこで、どんな条件が揃った時に、人はどんな行動をとるのか。その結果、どうなるのかを分析する学問」です。
従来の教育や指導の現場では、心に重きが置かれてきました。「やる気がないから勉強しない」「意識が低いからミスをする」といった具合です。
しかし、行動科学のアプローチは正反対です。「心の中は見えないけれど、行動は見ることができる」という前提に立ちます。
例えば、「部下が挨拶をしない」という問題があったとします。精神論による従来の指導と、具体的な介入による行動科学の違いを、下記にまとめました。
従来の指導 | 行動科学の指導 |
挨拶の大切さを説く | 挨拶しやすい環境を作る |
意識を変えさせる | 挨拶をしたら即座に褒める |
重要なのは、個人の資質や性格に原因を求めるのではなく、行動を取り巻く環境に焦点を当てる点です。
徹底した観察とデータ分析によって、再現性のある法則を見つけ出し、それを応用して望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らす。これが、行動科学のゴールです。
行動科学と心理学の違い
本来、行動科学は心理学の一部も含んだ広い学問領域です。
ここでは、心の内面に焦点を当てる一般的な心理学(臨床心理学や精神分析など)と、行動そのものに焦点を当てる行動科学(特に行動分析学)の違いを解説します。
項目 | 心理学 | 行動科学 |
フォーカス | 心の内側(感情、意識、無意識) | 体の外側(行動、環境、結果) |
アプローチ | 「なぜそう思うのか」を掘り下げる | 「どうすれば動くか」を設計する |
キーワード | やる気、性格、トラウマ、葛藤 | 刺激、反応、メリット、デメリット |
解決策の例 | カウンセリングで悩みを傾聴する | 行動しやすい物理的な仕掛けを作る |
再現性 | 個人の感じ方に依存しやすい | 誰がやっても同じ結果が出やすい |
心理学は、心の奥底にある感情やプロセスを大切にします。「なぜダイエットが辛いのか」という葛藤に寄り添うのが、心理学的なアプローチです。
一方、行動科学は非常にドライです。「辛いと感じていても、実際にジムに行きさえすればOK」と考えます。やる気がゼロでも、体が勝手に動いてしまうような仕組みを作ることに全力を注ぐのです。
ビジネスや個人の習慣形成において、行動科学が「即効性がある」と言われるのは、コントロールが難しい「心」ではなく、計測可能で操作しやすい「行動」と「環境」を相手にするからです。
なぜ今、行動科学が注目されている?
今、これほどまでに行動科学が注目されている背景には、現代社会特有の変化があります。
根性論の限界
かつての日本企業や教育現場では、「見て覚えろ」「気合で乗り切れ」という指導がまかり通っていました。
しかし、価値観が多様化した現代において、そのような精神論は通用しません。上司の背中を見るだけでは育たないし、気合だけでは複雑なタスクを処理しきれません。
年齢も国籍もバックグラウンドも異なる人たちを動かすためには、誰にでも通用する科学的で普遍的なルール、つまり行動の科学が必要になったのです。
データ社会との親和性
私たちは今、かつてないほど自分の行動を数値化できる時代に生きています。
スマートウォッチを着けていれば、歩数や心拍数、睡眠時間などが勝手に記録される。スマホを見れば、どのアプリを何分使ったかが分かる。
行動科学はデータを好みます。「なんとなく頑張る」ではなく、「先週より歩数が2千歩減ったから、靴を玄関に出しておこう」といった具合に、データを元に行動をチューニングできる環境が整ったことが、普及する追い風になりました。
自己コントロールへの渇望
SNSや動画配信サービス、安くて美味しいジャンクフード。現代社会は、私たちの脳をハッキングして時間を奪う魅力的な誘惑で溢れかえっています。
これらに意志の力だけで抗うのは、もはや不可能です。多くの人が「スマホを見すぎて時間を無駄にしてしまった」という後悔を抱えています。
だからこそ、自分の意志に頼らず、環境設計によって自分をコントロールする行動科学のメソッドが、現代人の武器として求められているのです。
行動科学が解き明かす!挫折してしまう本当の理由
「明日こそ早起きするぞ」と固く誓って眠りについたのに、翌朝、目覚ましのアラームを無意識に止めて二度寝してしまった経験。あなたにも一度はあるはずです。
あなたが起きられなかったのは、意志が弱いからではありません。行動科学でその現象を見れば、二度寝をしたのはそうなるように環境がセットされていたからであり、ある意味で当然の結果なのです。
なぜ私たちはこれほどまでに続かないのか。その本当の理由を、少し残酷な現実も含めて解き明かしていきましょう。
「意志が弱いから続かない」は間違い
行動科学には、人間の行動を分析するための「ABCモデル(応用行動分析)」という黄金のフレームワークがあります。非常にシンプルですが、人生を変えるほどのインパクトを持っているのです。
A(Antecedent:先行条件):行動を起こす前のきっかけや環境
B(Behavior:行動):実際の行動
C(Consequence:結果):行動した直後に起きること
ABCモデルにおける最大のポイントは、「習慣化するかどうかを決めるのは、C(結果)である」という法則です。具体的には、以下のような意味があります。
行動した直後に良いこと(メリット)があれば、その行動は繰り返される
行動した直後に悪いこと(デメリット)があれば、その行動は減っていく
では、多くの人が挫折するダイエットのための早朝ランニングを、ABCモデルで分析してみましょう。
A(先行条件):朝6時に目が覚める。外は少し肌寒い。
B(行動):布団から出て走る。
C(直後の結果):寒い、眠い、体が重い、息が苦しい。
行動した直後に待っているのは、不快感というデメリットばかりです。「痩せて健康になる」という本来のメリットは、数ヶ月先にしか現れません。
一方、二度寝はどうでしょうか。
A(先行条件):朝6時に目が覚める。
B(行動):布団に潜り込む。
C(直後の結果):暖かい、気持ちいい、安心感。
行動科学的に見れば、二度寝は直後に強烈なご褒美がもらえるため、極めて合理的な行動として脳に学習されてしまいます。
つまり、あなたが続かないのは意志の問題ではなく、行動直後の結果(C)において、悪い習慣(二度寝)が良い習慣(ランニング)に圧勝しているからなのです。
この構造を変えない限り、どんなに強い意志を持っていても、生物としての脳の仕組みには勝てません。
習慣化を妨げる心理的バイアス
私たちの脳は、実はそれほど賢くありません。むしろ、古代のサバンナで生き残るためにプログラミングされた本能が、現代社会ではエラー(認知バイアス)として働いてしまい、習慣化を邪魔することがあります。
特に厄介なのが、「現在バイアス(双曲割引)」と「現状維持バイアス」の2つです。
現在バイアス(双曲割引)とは、将来の大きな利益よりも、目の前の小さな利益を優先してしまう心理です。
冷静な頭で考えれば、「1年後に英語がペラペラになって年収が上がる」価値の方が、「今スマホで芸能人のゴシップ記事を読む」価値よりも高いことは明白です。
しかし、脳にとって1年後の未来は遠すぎてリアリティがありません。それよりも今すぐドーパミンが出るスマホを選んでしまう。これが、現在バイアスです。
「明日から本気出す」という言葉は、このバイアスの典型的な症状と言えます。
現状維持バイアスとは、変化を恐れ、今のままでいようとする心理です。新しい習慣を始めるということは、脳にとっては未知の領域への挑戦であり、エネルギーを浪費するリスクの高い行為です。
そのため、脳はあらゆる言い訳を作り出して、あなたを止めようとします。
今日は雨が降りそうだから
昨日は仕事で疲れたから
まだ準備が整っていないから
これらはあなたの本心ではなく、脳が変化を拒んで必死に作り出した、やらないための正当化に過ぎません。
三日坊主になるのは、ある意味であなたの脳が正常に機能し、あなたを変化のリスクから守ろうとした結果なのです。
環境が行動を決めているという事実
「人は環境の子なり」という言葉がありますが、行動科学において環境の力は絶対的です。少し想像してみてください。
あなたの家にあるリビングテーブルの上に、美味しそうなクッキーの入った瓶が置いてあります。あなたは「ダイエット中だから食べない」と決意しています。1時間後、クッキーは無事でしょうか?
おそらく、いくつか減っているはずです。逆に、クッキーが棚の奥の、脚立を使わないと届かない場所にしまってあったらどうでしょうか。わざわざ脚立を出してまで食べないでしょう。
やる気に満ち溢れている日は、誰でも頑張れます。問題は、疲れている日や嫌なことがあった日です。そんなモチベーションが底辺の日でも、行動できるようにするにはどうすればいいか。
答えは簡単です。意志力を使わなくても済むように、環境を変えることです。
スマホを触りたくないなら、意志で我慢するのではなく、スマホを別の部屋に置く
勉強をしたいなら、やる気が出るのを待つのではなく、机の上にテキストを開いた状態で置いておく
私たちが挫折するのは、自分の弱さのせいではありません。悪い習慣がやりやすく、良い習慣がやりにくいという、あべこべな環境の中に身を置いているからなのです。
行動科学に基づく習慣化の3原則
行動科学の膨大な研究から導き出された、習慣化を成功させるための3つの原則を紹介します。これらは、ダイエットでも勉強でも、どんな目標にも応用できるルールです。
行動のハードルを極限まで下げる
新しいことを始める時、私たちはつい気合を入れて高い目標を立てがちです。しかし、行動科学においては、失敗の予約をしているようなもの。脳は急激な変化を嫌います。大きな目標は、脳にとって脅威でしかありません。
最初の原則は、「これなら失敗しようがない」と思えるレベルまで、行動のハードルを下げることです。これを「スモールステップ」と呼びます。
重要なのは、目標の量を減らすだけでなく、行動に着手するまでの手間(物理的・心理的ハードル)を徹底的に削ぎ落とすことです。
物理的・心理的ハードルを下げる例をいくつか紹介します。
朝ランニングしたいなら、ウェアを着て寝る(着替える手間をゼロにする)。
ジムに行きたいなら、靴とタオルを玄関のドアノブにかけておく(探す手間を省く)。
本を読みたいなら、Kindleアプリをスマホのドック(一番下の固定バー)に入れておく。
「ジムに行く」ではなく、「ジムの建物の前まで行ってタッチして帰る」を目標にする。
「勉強する」ではなく、「テキストを開く」ことだけを目標にする。
「こんなに低くていいの?」と思うかもしれませんが、それでいいのです。人間の脳には「作業興奮」という性質があり、一度始めてしまえば、意外とやる気が出てきます。
最もエネルギーを使うのは、0から1にする瞬間。この摩擦係数をゼロに近づけることが、継続の第一歩です。
トリガー(きっかけ)を明確に設計する
習慣化できない人の口癖は「時間ができたらやろう」「余裕がある時にやろう」です。残念ながら、現代人に自然と時間ができることなんてありませんし、やる気が都合よく出ることもありません。
確実に行動するためには、行動のスイッチとなるトリガー(先行条件)を明確に設計する必要があります。
最も強力な手法は、すでに定着している習慣に新しい習慣をくっつける「if-thenプランニング」の応用です。
歯を磨く
トイレに行く
お風呂に入る
コーヒーを飲む
上記のようなものは、あなたが毎日無意識に行っている強力な習慣です。これらを機関車として、新しい習慣という車両を連結させるのです。
NG | OK |
毎日スクワットをする | トイレから出たら、その場でスクワットを3回する |
英語の勉強をする | ドライヤーで髪を乾かし始めたら、英語のポッドキャストを再生する |
日記を書く | 夜、枕に頭を乗せたら、今日あった良いことを1つ思い浮かべる |
いつ、どこでやるかが決まっていない行動は、日々の忙しさに埋もれて消えていきます。「AしたらBする」という回路を脳に焼き付けることで、意志の力を介さずに、体が自動的に反応するようになります。
即時フィードバックで脳に報酬を与える
ABCモデルで触れた通り、脳は直後の結果を見て、その行動をリピートするかどうかを決めます。しかし、勉強や運動の成果(=報酬)が出るのはずっと先のことです。
そこで、行動した直後に、人工的に報酬を作り出す必要があります。これを、行動科学では「強化(Reinforcement)」と呼びます。
報酬といっても、毎回ケーキを食べるわけにはいきません。脳が「快」と感じるものなら、以下のようにもっと些細なことで構いません。
カレンダーに大きな花丸を書く(視覚的な達成感)
スマホの習慣管理アプリでチェックを入れる(タスク完了の快感)
好きなお茶やコーヒーを飲む
ガッツポーズをして「よし!自分すごい!」と声に出す
実は、記録をつけること自体が強力な報酬になります。「1週間続いた」という記録が目に見えると、脳は「ここで途切れさせるのはもったいない」と感じ始めます(保有効果)。
行動した直後の60秒以内に、自分に対してポジティブなフィードバックを与えること。これが、脳に「この行動は苦痛ではなく快楽だ」と誤認させるテクニックです。
行動科学に基づく習慣化テクニック5選
3つの原則を理解した上で、さらに実践的なテクニックを紹介します。これらは世界中の研究機関で効果が実証されているメソッドであり、組み合わせることで最強の習慣化システムを構築できます。
if-thenプランニング
「if-thenプランニング」は、多くの研究で目標達成や行動実行を有意に高めることが証明されているテクニックです。
ルールは極めて単純。「もし(if)Xが起きたら、その時は(then)Yをする」という公式に当てはめるだけ。
if-thenプランニングを活用する際のコツは、具体的であればあるほど良いということ。
悪い例:疲れたら、休む。
良い例:仕事中にため息が出たら(if)、席を立って給湯室まで歩いて戻ってくる(then)。
また、挫折しそうな時の対策としても使えます。
If | Then |
飲み会でビールを飲みたくなったら | とりあえず炭酸水を注文して、一口飲んでから考える。 |
勉強中にスマホを触りたくなったら | 目をつぶって5回深呼吸をする。 |
事前にどう動くかをプログラミングしておくことで、いざという時に「どうしようかな」と迷う必要がなくなります。迷いは意志力を消耗させますが、ルールは意志力を節約してくれるのです。
誘惑バンドリング
「誘惑バンドリング(TemptationBundling)」は、ペンシルベニア大学の研究チームが提唱した、苦痛と快楽をセットにする方法です。
「やるべきこと(やりたくない行動)」を行っている間だけ、「やりたいこと(大好きな行動)」を許可するというルールを作ります。
例えば、ある人はジムのランニングマシンが大嫌いでしたが、Netflixの海外ドラマが大好きでした。そこで、「あのドラマの続きは、ジムのランニングマシンの上にいる時しか見てはいけない」というルールを自分に課しました。
するとどうでしょう。あんなに嫌だったジム通いが、「早く続きが見たい」という楽しみに変わったのです。
好きなポッドキャストは、通勤中の英語学習の後にだけ聴ける。
お気に入りの高級チョコレートは、難しい書類作成が終わった瞬間にだけ食べられる。
大好きなアーティストのアルバムは、部屋の掃除をしている時だけ再生できる。
嫌なことをするためのご褒美として好きなことを使うのではなく、嫌なことそのものを好きなことを行うための入場券にしてしまうのです。
20秒ルール
「20秒ルール」は、『幸福優位7つの法則』の著者であるショーン・エイカー氏が提唱した、シンプルかつ強力な環境設計です。
良い習慣を始めるための手間を20秒減らし、悪い習慣を始めるための手間を20秒増やす。たったこれだけで、行動の選択率は劇的に変わります。
私たちが「面倒くさい」と感じる境界線は、実は20秒程度だと言われています。
例えば、ギターの練習を習慣にしたいとしましょう。ギターがケースに入ってクローゼットの奥にあると、取り出して構えるまでに20秒以上かかります。これだと練習しません。
逆に、ギタースタンドを買ってリビングの手の届く場所に置いておけば、2秒で弾き始められます。
テレビをダラダラ見るのをやめたいなら、リモコンの電池を抜いて、別の引き出しに入れてみてください。見るたびに「電池を入れる」という20秒の手間が発生します。
すると不思議なことに、脳は「そこまでして見なくていいか」と判断するようになるのです。
コミットメントデバイス
「コミットメントデバイス」とは、未来の自分が誘惑に負けないように、今のうちに自由を縛ってしまう仕組みのことです。これは、自分一人ではどうしてもサボってしまう人におすすめの荒療治です。
例 | 詳細 |
SNS宣言 | XやInstagramで「毎日◯◯をします!サボったらフォロワー全員にスタバカード配ります」と宣言する。 |
罰金契約 | 友人と「もし私が約束を破ったら、あなたに1万円払う」という契約を結ぶ。 |
強制遮断 | 勉強中はタイムロッキングコンテナ(設定した時間まで絶対に開かない箱)にスマホを封印する。 |
サボることのコストを極大化させることで、強制的に行動せざるを得ない状況に自分を追い込みます。
スモールウィンの積み重ね
「スモールウィン(小さな勝利)」とは、どんなに小さなことでもいいから「達成した!」という感覚を積み重ねていくことです。
多くの人は、目標を達成できなかった自分を責めますが、行動科学では逆です。できたことにフォーカスします。
本を1ページ読めた。すごい!
スクワットが1回できた。偉い!
野菜を一口食べた。素晴らしい!
バカバカしいと思うなかれ。この小さな勝利感こそが、ドーパミンを分泌させ、次の行動への燃料となります。
大きな目標を目指すとき、いきなり頂上は見えません。足元のワンステップを確実に踏みしめ、「一歩進んだ」という事実を噛み締める。気がつけば、振り返った時に驚くほど高い場所まで来ている自分に気づくはずです。
仕組みによる習慣化を続けるための環境設計
テクニックを単発で使うだけでなく、あなたの生活空間(自宅や職場)そのものを習慣化仕様にリノベーションしてしまいましょう。
インテリアコーディネートの観点ではなく、行動科学の観点から部屋を見渡すと、改善すべきポイントがたくさん見えてきます。
物理的環境を整える
勉強机に座った時、読みかけの漫画やゲーム機などが視界に入っていれば、それは脳にとって誘惑のノイズです。
人間は視覚的な刺激の影響を受けやすいと言われています。集中したいなら、関係ないものを視界から物理的に消すことが先決です。
物理的環境を整える方法を2つ紹介します。
方法 | 詳細 |
ゾーニング | 勉強する場所とリラックスする場所を分ける。ワンルームなら、勉強する時は壁に向かう、リラックスする時は窓に向かうなど、座る向きを変えるだけでも効果あり。 |
キュー(合図)の配置 | ヨガを習慣にしたいなら、ヨガマットを畳まずに敷きっぱなしにしておく。水を飲む習慣をつけたいなら、ウォーターボトルを常に机の上に置く。 |
時間的環境を整える
あなたの1日の中で意志力が満タンの状態は、朝起きた直後です。意志力はRPGのMPのようなもので、朝が満タンで、何かを決断したり我慢したりするたびに減っていき、夜にはすっからかんになります。
したがって、最も習慣化したいこと(脳を使うこと)は、MPが満タンの朝一番に持ってくるのが鉄則です。
夜にやろうとしても、疲れ切った脳は誘惑に勝てません。「仕事から帰ってきてから勉強しよう」というのは、MPがゼロの状態でボス戦に挑むようなものです。
やる時間を固定することでも、「いつやろうかな」と悩む決断コストを節約できます。
心理的環境を整える
「朱に交われば赤くなる」ということわざ通り、人間は周囲の人の行動に大きく影響を受けます。これを「社会的証明」と呼びます。
もしあなたの周りが、週末は昼まで寝て、夜は飲み歩く人ばかりなら、あなただけが早起きして勉強するのは至難の業です。
心理的環境を整える方法を2つ紹介します。
方法 | 詳細 |
コミュニティの変更 | すでにその習慣が当たり前になっている集団に飛び込めば、努力しなくてもその行動が普通になる。 早起きしたいなら、朝活コミュニティに入る。読書したいなら、読書会に参加する。 |
アイデンティティの再定義 | 自分自身への語りかけを変える。行動とアイデンティティが一致すると、継続は苦痛ではなく誇りになる。 「禁煙しようと頑張っている人」ではなく、「私はタバコを吸わない人だ」と定義する。「走ろうとしている人」ではなく、「私はランナーだ」と思い込む。 |
行動科学に基づく習慣化をサポートするアプリ
「理屈はわかったけど、毎日自分で管理するのは面倒くさそう」と感じた方もいるかもしれません。習慣化のための管理作業自体が、新たな負担になって挫折しては本末転倒です。
しかし、今は行動科学の理論をデジタルに実装し、面倒な管理を代行してくれる便利なアプリがあります。
習慣化にアプリを使うメリット
アプリを使う最大のメリットは、脳のメモリを解放できることです。
「次はあれをやって、その次はこれをやって」と、手順を覚えている必要はありません。アプリが「次はこれですよ」と教えてくれるなら、あなたはそれに従うだけで済みます。
また、アプリは嘘をつきません。客観的なデータとして、継続日数や実施時間が可視化されるため、感情に左右されずに自分の進歩を確認できます。
アプリ選びのポイント
数えきれないほどの習慣化アプリが出ていますが、行動科学的に見て、使えるアプリを選ぶ基準は以下の3点です。
ポイント | 詳細 |
UIがシンプルか | アプリの入力に手間がかからず、使いやすいか。 |
スモールステップを肯定してくれるか | 高い目標だけでなく、小さな一歩も記録・評価できるか。 |
失敗に寛容か | 1日記録を忘れただけで「継続日数0日」にリセットされ、やる気を削ぐような仕様ではないか。 |
行動科学の考え方を取り入れたおすすめアプリ
数あるアプリの中で、特に行動科学の「行動の連鎖(チェイニング)」をうまく取り入れているのが、『Routinery(ルーティナリー)』というアプリです。
このアプリが優れているのは、単なるToDoリストではなく、「朝の準備」「寝る前の儀式」といった一連の流れを、タイマー付きでガイドしてくれること。
例えば、「朝のルーティン」ボタンを押すと、
ベッドメイキング(2分)
コップ一杯の水を飲む(1分)
瞑想(5分)
今日のタスク確認(3分)
上記のような具合に、次にやるべき行動と残り時間が画面に表示され、音声ガイドも流れます。ユーザーは「次は何しよう?」と考える必要がありません。
ガイドに従って体を動かすだけで、気づけば理想的な朝の時間を過ごせています。これはまさに、行動科学における「先行条件の提示」を自動化したものです。
意志の力で自分を律するのが苦手な人こそ、こうしたデジタルの力を借りて、環境に自分を導かせるのが賢い選択と言えます。
行動科学に関してよくある質問
最後に、行動科学を実践しようとする際によく浮かぶ疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q.行動科学の身近な例は何がある?
生活の中で、実はお店側やサービス提供者が仕掛けた行動科学で溢れています。例をいくつか表にまとめました。
例 | 詳細 |
スーパーのレジ横のガムや電池 | ついで買いを誘発する配置。並んでいる間の手持ち無沙汰という先行条件を利用している。 |
ポイントカード | スタンプが貯まるという視覚的な報酬を与え、再来店という行動を強化している。 |
Netflixの「次のエピソードを再生」 | 5秒後に勝手に次が始まる仕組みは、視聴を止めるためのハードルを上げ、見続けるハードルを極限まで下げている。 |
男性用トイレの小便器にある的 | 人は的があると無意識に狙いたくなる習性を利用して、尿の飛散を防いでいる。 |
Q.行動科学における「3の法則」とは何?
まず、行動科学の学術用語として「3の法則」という定義はありません。一般的に混同されやすい2つの話を解説します。
1つ目は、社会心理学の実験に由来する話です。空を見上げる人が1人2人の時よりも、3人になった途端、つられて見上げる通行人が激増した現象。集団心理が働くスイッチとして「3」が語られることがあります。
2つ目は、習慣化における「3日(反発期)・3週間(不安定期)・3ヶ月(倦怠期)」という継続の壁です。これらは科学的な根拠がある数字ではありません。 「3」という数字自体に科学的根拠はないので、あくまで目安として捉えましょう。
Q.行動科学は独学で学べる?
行動科学は独学でも十分に学べます。専門的な実験をするわけでなければ、一般向けの書籍で基礎理論を学び、自分の生活で実験してみるのが一番の近道です。
まずは、自分観察日記をつけることから始めてみてください。自分の行動パターンを客観的に記録することで、自分専用の取扱説明書が見えてきます。
いつサボったのか?その時スマホはどこにあったか?
いつ集中できたか?直前に何をしていたか?
Q.行動科学が学べるおすすめの本は?
書籍で行動科学を学ぶのであれば、難しい学術書よりも実践的な内容のものがおすすめです。ここでは、おすすめの本を3冊だけ紹介します。
書籍 | 著者 | 概要 |
影響力の武器 | ロバート・B・チャルディーニ | 人がなぜ動かされるのか、その心理的トリガーを網羅したバイブル。 |
習慣の力 The Power of Habit | チャールズ・デュヒッグ | 習慣が形成されるメカニズム(きっかけ・ルーチン・報酬)を豊富な事例で解説。 |
ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣 | ジェームズ・クリアー | スモールステップや環境設計のテクニックが極めて具体的で、今日から使える技が満載。 |
Q.習慣化にはどれくらいの期間がかかる?
ロンドン大学の研究によると、新しい行動が自動化される(無意識にできるようになる)までの平均日数は、66日でした。ただし、これはあくまで平均です。
「朝水を飲む」ような簡単な習慣なら18日で定着することもありますし、「毎日腹筋50回」のような負荷の高い習慣なら254日かかる場合もあります。
重要なのは、続けた日数よりも、途中で1日や2日サボっても、気にせず再開することです。
研究では、1回程度の失敗は習慣形成に長期的な影響を与えないことが証明されています。完璧を目指さず、しぶとく続けることが大切です。
まとめ|行動科学を味方につけて、続けられる自分になろう
あなたがこれまで何度も挫折し、「自分はダメだ」と枕を濡らしてきたその原因は、決してあなたの人間性や能力の欠如ではありません。
ただ単に、人間の脳の仕組み(行動科学の法則)を知らなかっただけ。それに逆らうような、いばらの道(精神論)を選んでしまっていただけなのです。
今日、あなたは地図(ABCモデル)とコンパス(スモールステップや環境設計)を手に入れました。もう、暗闇の中で意志の力を振り絞る必要はありません。
性格を変えるのは至難の業ですが、環境を変えるのは一瞬です。そして環境が変われば、行動は必ず変わります。行動が変われば、習慣が変わり、やがてあなたの人生そのものが変わっていきます。
今すぐに、何か一つだけ小さな環境の変化を起こしてみてください。スマホの配置を変えるだけでも構いません。その小さなワンアクションが、続けられる自分への第一歩です。